waxの日記

日常のひとコマ。見たこと、感じたこと、思ったこと…

「バグダッド・カフェ」ディレクターズ・カット版を観る。

以前から観てみたいと思いつつ、
これまでなかなか観る機会に恵まれなかった映画「バグダッド・カフェ」。
日本初上映から20周年を記念して、今回劇場で上映されるというので、
これはチャンスと観に行くことにした。

渋谷円山町にあるミニシアターユーロスペースで午前十時からの上映。
ユーロスペースは、ラブホ街がある円山町にあり、すぐ隣に「club asia」がある。

上映直前に入場すると既に満員状態。
上映から3週目に入るが、カルト的人気はいまだ健在のようだ。
館内は綺麗で清潔的。中央付近に1席だけ空席を見つけ、
何とかベストポジションを確保できた。座席は少々狭く感じたが座り心地は良い。


映画館で映画を観る面白味のひとつは、見知らぬ者同士が、
一つの作品を鑑賞するために、同じ時間、同じ空間に集まり、
暗闇に浮かぶ世界を通じて、同じ体験をする一体感にあると思う。
喜びも、悲しみも共に分かち合うつかの間の運命共同体

絶叫マシンやお化け屋敷、スポーツなどの
心拍数が高まる(ドキドキ)体験を共に経験すると、
恋愛感情が芽生えたり、友情が強まるなど、
特別な感情が芽生えやすいという実験結果を心理学の本で読んだことがある。
同じ体験を通じ、乗り越えることで、絆がより深まるということなのだろう。


さて、
バグダッド・カフェ」は1987年制作のドイツ映画だが、舞台はアメリカ。
ラスベガス近郊の砂漠地帯。そこを通るハイウェイ沿いに、
ポツンと建つ寂れたモーテル&カフェ、それが「バグダッド・カフェ」だ。
中心人物となるドイツ人旅行者ジャスミンと、カフェの女主人ブレンダ、
二人の女性を軸に、そこに集う人々の交錯する物語がユーモラスに描かれている。


今回上映された「バグダッド・カフェ」は当時公開されたオリジナル版を、
監督自らが納得いくまで調整したディレクターズ・カット版となる。
【参考】あの「バグダッド・カフェ」が再公開。パーシー・アドロン監督に聞く
【参考】公開から20年。なぜ映画『バグダッド・カフェ』は今も愛され続けるのか?
【参考】「バグダッド・カフェ」デジタルリマスター版、ユーロスペースで再映へ
【参考】砂漠のルート66 押本龍一のUSAデジタルフォト日記(←ロケ地)


日本では1989年に初上映され、今年でちょうど20周年。
1989年をWikipediaで調べてみると、
昭和天皇崩御し、年号は昭和から平成へ。
手塚治虫、みそらひばりの死去。ベルリンの壁崩壊。
そしてこの年を最後に株価が下落へ転じ、バブル崩壊が始まる。
振り返ると、とてもインパクトのある節目の年だったことがわかる。


この映画の中で、物語の節目ともいえる印象的な場面がある。
砂漠の砂に埋もれ、輝きを失ってしまったバグダッド・カフェを、
新参者のジャスミンが、隅から隅まで綺麗に掃除してしまうシーンだ。
そこから全ての流れが変わって行く。


誰もができたことなのに、
「そんなことをしたって、何も変わりゃしない。」そんな思いが伝播して、
だれも動こうとしない。ただ惰性的に生き、問題は一向に解決しないまま、
時だけが流れてしまう。そんな状況は、現実の世界でもよくある話だが、
ジャスミンのとった小さな行動一つ一つが、
あきらめかけていた皆の意識を少しずつ変えていく。
それぞれの心に希望の光が見えはじめたとき、全ての歯車がかみ合い回り出す。


一人一人のモチベーションをグイグイ持ち上げていくジャスミンの姿は、
マネジメント能力に優れたリーダーの姿にも重なって見えた。
しかし打算的な部分は微塵もない。ただ皆と仲良くなりたい、絆を深めたい、
皆が喜ぶことをしてあげたい。それだけなのだ。


それぞれが心地良いと感じられる自分の居場所を見つけられた頃、
カフェは、悪態や罵声の飛び交う空間から、笑みの溢れる素敵な空間へと変わる。
そんなカフェには、自然と人が集まるようになり…


この映画は大切な事を教えてくれる。
でも20年前にこの映画を観ていたら、今ほどいろんなことを感じたり、
思いを巡らすことは無かったかもしれない。
様々な経験を経て、世間の複雑な仕組みや問題を身にしみるようになってから、
あらためてこのような映画をみると、ふっと我に返って感慨深いものがある。
だいぶ遅くなったが、このタイミングで観ることができたのは幸運だった。
映画を見終える頃、希望と幸福感に満ちて、やさしい気持ちになれた。


さて、この映画を語るときに忘れてならないのは、
ジェヴェッタ・スティールが歌う主題曲「コーリング・ユー(Calling you)」だ。
映画を知らない人でも、この曲だけは耳にしたことがあるはず。
名曲だが、感傷的なそのメロディを聴いていると、
日が暮れるときのような寂しさを感じさせる。
しかし映画を観た後ならきっと、ポジティブな気持ちで心穏やかに聴けるはずだ。

(参考)CALLING YOU - W&R : Jazzと読書の日々 | (参考)FelicidadeとCalling You 歌詞と曲


長く愛され続ける映画には、確かな理由がある。
それが何なのか確かめたくて、往年の名作を観ることもあるのだが、
過去の名作50作品を全国25の劇場で観られるイベントが開始されるようだ。
意外と観ていない作品もあり、解説を読んであらためて興味がわく作品もあった。
劇場で観られるこの機会に、また足を運んでみようと思う。
『午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本』